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今年のフォーラム

Osaki Midori Forum in Tottori

           
          KEiKO・萬桂さんの講演抄録

 

  

   翠さんをいつも身近に
     『第七官界彷徨』の挿絵を描いて

                美術作家 KEiKO*萬桂

 わたしは三年前の六月二十四日に、岩美町の大羽尾に
引越してきました。羽尾の浜から東浜まで海に沿って、三
十分から一時間、 早朝のウォーキングを始めて約十ヵ月、
とってもうれしいことに約十`のダイエットに成功しました 。
 美しい日本海の見える場所にアトリエを持つことができ、
みなさまの笑顔に囲まれ、新鮮なお野菜や海の幸をいた
だき、いつの間にかこの三年の間に、自分の中の細胞が
何か少しずつ変わってきて、いろんな意味で穏やかになれ
たような気がしています。 作品づくりにも没頭できる場所と
いうものができ、とてもありがたいです。

 龍が舞い降りた

 わたしは多摩美術大学の染織デザイン科に進み、卒業後
は東京でテキスタイルデザイナーをしていました。フランスに
行ったり、わたしの創ったドレスが雑誌にとりあげられたり
したんですけど、なぜか気持ちにしっくりこなくて、 何か違
う、自分の探しているものは何か別にあるんではないかと思
っていました。そんな迷いの中で豊岡に帰省することになり、
納得のいかない気持ちのまま、東京と豊岡を行ったり来たり
しながら、無意識に絵を描きたい気持ちが心の底にたまって
いきました。
 その時の自由に描けない状況、描きたいけど描けない、表
現したいけどできない気持ちが自分の中にどんどんたまって、
あらためて墨で作品を描き始めたとき、マグマが一気に爆発
するように作品が生まれてきました。銀座での個展の二回目
だったと思います。 大きな作品が発表したくなり、 夜中に畳
一畳半くらいの紙に向かい、自分が描ける状態になるのを待
っていました。
 満月の夜、暗闇の中にろうそくをともし、 自分の好きな曲
をかけていました。 ふいにぐらぐらっとするような 感覚がや
ってきて、 ものすごいスピードで体が動きはじめました。 そ
の時の状態は、目も見えず、今まで大きな音でかかっていた
はずの音もまったく聞こえなくなり、 音のない世界の中です
べてが透明になって、 浮遊しているような感覚になりました。
筆を持って、勝手に体が紙の上を走り回っていました。 ひと
しきり動き回ったあと、 不思議なエネルギーのかたまりがあ
る瞬間、 すうっと消えて、  動きも止まって、 自分にかえりま
した。その時に動いた跡が墨の濃淡や飛沫になって、ひとつ
の大きな抽象の作品が生まれました。
 大きな龍が天からするするっと自分の中に入ってきて、お
もいきりうごめいたり 叫んだりして、 思いを果たすと、 また
すうっと 空に昇っていった、 というような感覚でした。 不思
議なパワーが自分の中に入ってきて、そのエネルギーのまま
に作品が生まれるという初めての経験でした。
 銀座で個展を重ねるうちに、三越やパリでの個展の話をい
ただきました。パリでの個展のときに、 初めてみなさんの前
で即興で作品を描くという ライブパフォーマンスをしました。
二〇〇三年の九月でした。裸足でアンティークの着物にタス
キがけ、 金銀の三つ編みの長いエクステンションをつけて、
ロックに合わせて描きました。 パリのカフェで空を眺めなが
ら浮かんできた 「風、雲、飛、龍」の四文字を私なりの表現
で描きました。

 潮騒の聴こえるアトリエ

 二〇〇八年の冬、今思うとわたしにとって大切な転機がや
ってきました。尾崎翠さんのご親戚にあたられる方のご紹介
で、今の大羽尾のお家にアトリエを移したのです。初めてそ
のお家にうかがったときは、  とてもびっくりしました。  二階
にあがって窓を開けた瞬間に、ざーっざーって波の音が聞え
てきました。豊岡の街中で生まれ育ったわたしにとって、 家
の中に波の音が響いてくるなんて、すごい衝撃で、なんて素
晴らしい! と思いました。 即座にお家を貸していただこうと
決めました。
 アトリエの二階からは、いつも日本海が見えています。 季
節や時間によって、刻々と表情を変える美しい海と空が目の
前に広がっています。 絵を描くときも、 ちょうど視線の先に、
窓の向うですけど、そこに水平線と白い波があります。この
海から、潮騒から冬も春も四季を通じていつもパワーをもら
っています。
 先日、尾崎翠さんが十七歳から二十歳まで暮らしていた網
代の僧堂に案内していただきました。 今は見えなくなってい
るそうですが、翠さんが暮らしていた部屋からも当時は海が
見えていたそうです。 なので、 翠さんもきっといつも海を身
近に感じ、海鳴りを聴いていたんだと思いました。
 翠さんが暮らしていたお堂の段々をおり、 坂道をしばらく
行くと浜に出ます。海の向うには砂丘が見え、空気の澄んだ
日にはその先の青谷も見えるそうです。当時、翠さんには思
いを寄せる人がいて、その人が青谷に住んでいたということ
です。翠さんはこの浜が好きで、 浜にすわり、 よく海を眺め
ていたそうです。
 都会へのあこがれ、自分のこれからのこと、いろんな思い
の中で、朝の海、夜の海、夜明けの海、冬の荒れた海、凪い
だ海、青い海を繊細な細胞で感じていたのではないでしょう
か。
 夜明けの浜をはだしで歩くと、細かい砂がとてもいい気持
ちです。波の音と風、潮の香り、朝日が波に映り、 きらきら
しています。そんなとき、それらすべてと自分が一体になり、
何もかもが透明になってしまう瞬間があります。それはもう
自分とか、 人間とかいうことではなく、 何ものでもなく、 た
だ細かい分子になって宇宙と溶け合っている、大きくて安ら
かなものに包まれ一体になっているとても幸せな感覚です。

 自由に描かせてもらった挿絵


 二〇一〇年の夏の終わりごろ、フォーラム実行委員長の土
井さんから「今度『第七官界彷徨』が日本海新聞に復刻連載
されることになり、 挿絵を描いてもらえないでしょうか 」  と
いう話をいただきました。後日、新日本海新聞社の石井さん
とアトリエに来てくださり、「萬桂さんなりに自由に描いてもら
えたらいい」といっていただき、お引き受けしました。 その年
九月から始まった連載はほぼ毎日、翌年一月初めまで三か
月、八十四回続きました。 
 小説を読み返すなかで、ずっと前からやってみたかった版
画への意欲が湧いてきました。佐治の手漉き和紙をいただき、
それに版画の技法を使い、さらに筆でにじみなども加えて描
きました。
 山陰の風土からくる懐かしさ。 一方、 都会のレトロでモダ
ンな空気。 からりとしつつも、 じんわりとした青春の哀感の
ようなもの。 コミックオペラを 音のはずれたピアノで歌う 三
五郎と町子ちゃん。髪を切られながら意識がまどろんで、泣
いてしまう町子ちゃん 。 それぞれがとても可愛く、 きゅんと
くる場面の連続です。小説を読みながら、いろんな場面に呼
応するように、 今までとは違った新たな作品が生まれてきま
した。
 翠さんの小説の根底には山陰の風土、景色、そこから漂っ
てくるにおいがあります。 おばあちゃんの町子に対する愛情、
それを敏感にうけとめる町子の素直さとか素朴さ。小説の中
に出てくる、お茶碗とか米びつ、 柿の木などは手漉き和紙と
版画の技法を組合わせることによって、より懐かしい温かみ
のある作品に仕上がったように思います。
 一方、小説から漂う都会のモダンな空気、時代の空気。そ
れらはとてもおしゃれです。 今なおとても新鮮に感じられる
話し言葉や単語。それらによって雰囲気がとても盛り上がっ
ています。 カタカナで書かれたノオトとか チヨコレエト、 ボ
ヘミアンネクタイ、 ひらがなのぼおいすあつぷ、かたこいと
いった言葉がとても好きです。そんな斬新でモダンな空気が、
単純な形を使った抽象になったり、カラフルな色目の挿絵に
なりました。哀愁っぽい場面は、藍色だけで版画とにじみを
組合わせて表現したり、コミカルな場面は音符を飛ばしたり、
人物を登場させてその表情を描きました。 
 ひとつの小説の中で、抽象と具象、版画と手描き、 静物と
人物など、相反するさまざまな技法と表現ができたのは、翠
さんの持っている小説の力のおかげだと思います。 ただスト
ーリーを追うだけの小説だったら、 こんなにも 熱中すること
もできず、新しい表現も生まれてこなかったと思います。

 第七官に響く作品を

 このたび初めての詩画集 『薊の棘』をつくらせていただき
ただき、今日の日に間に合わせていただくことができました。
詩画集をつくることができたのも、 岩美に来れて、たくさん
の方にお出逢いし、翠さんの小説の挿絵を描かせていただく
なかから自分の表現が広がり、小説から受けるとても斬新で
すばらしい感覚に自分が刺激されたからです。
 これからも抽象と具象, 現実と非現実、自分の中のものす
ごくはげしい部分と 弱い部分、 そういったものの 両極をいっ
たりきたり大きく揺れ動く中で、わたしなりの第七官に響く作品、
しみ込む作品、そういったものを何とかつくれるようにこれから
がんばっていきたいと思います。いつの日か、翠さんに「あな
た、これ、なかなかいいんじゃない!」なんていっていただける
ような作品がつくれたらいいなと思います。
 なんでか自分でもわからないんですけど、翠さんのことをと
ても身近に感じています。 いつもすぐそばで見守られている
ような感覚のなかで、 これからもがんばっていきたいと思い
ます。
             
 (記録・山本薫里/抄録・土井淑平)

 

※ 講演の詳細は 『尾崎翠フォーラム・in・鳥取2011報告集』
(12月上旬
刊行)に収録します。報告集の問合せと注文は以
下まで。

       manager@osaki-midori.gr.jp