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今年のフォーラムOsaki Midori Forum in Tottori |
発見された尾崎翠の新資料と出典 1、尾崎みどり「卒業の頃」 |
土井淑平
鳥取県立図書館は教育記者クラブで6月18日、尾崎翠の新出
作品4点を発見し展示するとの記者発表をしました。
新たに見つかった尾崎翠の新出作品は上記の通り4点で、鳥取
県立図書館・学芸員の渡邉仁美さんが展示資料収集の過程で発
見されたものです。
県立図書館2階の特別資料展『尾崎翠 ― 迷宮への旅 ― 』(6
月26日〜7月25日)で、これら新出作品もパネル展示されますの
で、同館を訪れる方はどなたでも全文に目を通すことができます。
わたしたちは7月3〜4日の第10回記念『尾崎翠フォーラムin
鳥
取2010 』でも、渡邉さんから発見の経緯などについて簡単に報告
していただきます。
新出資料4点は、著作権者である親族代表のご了解を得ました
ので、今年12月上旬発行予定の『尾崎翠フォーラムin 鳥取 2010
報告集』に、全文掲載させていただきます。
これらの作品のストーリーは、父親など家族を亡くしたり、親と
離れて暮らしている子どもが登場する点、並びに、海を題材にして
いる点から翠の少女小説と共通します。
発見者の渡邉仁美さんは「大正期の尾崎翠は
『少女世界』 『少
女の友』などといった少女雑誌に掲載された少女小説作品が多か
ったことで知られていたが、今回の発見でこの時期の執筆作品が
少女小説のみにとどまらないことが分かった。他の児童雑誌も調
査する必要がある」と指摘されています。
また、尾崎翠が「南條信子」の名前で作品を執筆していたことは
全集の年譜でも触れられていますが、これまで実際に発見された
作品は「銀の燭代」の1作品のみでした。今回新たに1作品が発見
されたわけですが、渡邉さんによると「内容は映画に出演する少女
をテーマとしており、映画好きであった尾崎翠の嗜好が現われてい
る」ということです。
今回発見の新出資料の意義は、発見者の渡邉仁美さんご自身が
解説されている通りですが、わたしは以下の3点を指摘しておきたい
と思います。
第1に、(渡邉さんのご意見と重なりますが)
ごく初期の尾崎翠
の作品が少女雑誌だけでなく、『小学生』といった児童雑誌にまで
及んでいたこと、今後この分野で新資料が発見される可能性が高
いこと。
第2に、尾崎翠が鳥取高等女学校を卒業して大岩尋常小学校の
代用教員をしていた時代(17歳から3年近く)の、漁村・網代の生
活体験と心象風景が、これらの作品(「卒業の頃」「船出」「姫が島」
)に色濃く投影されていること。
第3に、尾崎翠は12歳のとき父親・長太郎が事故死し、その精
神的ショックの後遺症を生涯背負いますが、父親や家族の死の哀
しみがこれらの初期作品(「卒業の頃」「姫が島」「映画幕」)にいち
早く投影されていること。
わたしは尾崎翠の作品の特徴は、「哀しみ」(
メランコリー ) と
「滑稽」(ユーモア)が背中合わせにあることだと考えていますが、
その一方の「哀しみ」( メランコリー
)の根源と系譜に連なる初期
作品だと思います。
あらためて、発見者の渡邉仁美さんに感謝申し上げるとともに、
第10回記念『尾崎翠フォーラムin 鳥取2010 』に合わせて、その前
後に県立図書館が開催される特別資料展で、尾崎翠の他の資料
ともども展示していただきますことにも、厚く御礼申し上げる次第で
す。
なお、この特別資料展では、尾崎翠が1927年(昭和2)ごろ丘
路子のペンネームで執筆し、松下文子が保存していた映画台本
「琉璃玉の耳輪」の原文も、ご遺族から借用して初公開されるそう
ですので、ご期待ください。
(尾崎翠フォーラム実行委員会代表)
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