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今年のフォーラム

Osaki Midori Forum in Tottori

 

    ◆澤登翠さんの講演抄録◆

                『「椿姫」の魅力』

                      澤登翠

              講演する澤登翠さん                     

尾崎翠が傾倒したナジモヴァ夫人

 『椿姫』という映画はアラ・ナジモヴァ主演の映画でございます。このアラ・ナジモヴァという方を尾崎翠が大変に好んでいた。もう、すごいんですね、その傾倒ぶりが。『映画漫想』をちょっと読ませていただきます。 
 「静画(サイレント映画のことですね)へのノスタルジアの赴くところ、その故郷はいろいろ数多いけれど、なかでいちばん大きな故郷は、アラ・ナジモヴァ夫人のようだ」。
 「アラ・ナジモヴァ夫人」って。「アラ・ナジモヴァ」じゃあ、ございません。「夫人」がついちゃう。当時ナジモヴァは尊敬を込めて夫人と呼ばれていたんですね。
 「ナジモヴァはシャンデリアだ。いま蛍どもの多い今日、消えてしまったナジモヴァに寄せる想いは、大がかりな凝りに凝ったシャンデリアへの渇望なのだ」。すごいですねえ。凡百のスターは蛍であると。
 「ナジモヴァの偉(おお)きさは、自然を足蹴にした偉きさと言っていい、彼女の爪さきにまで行きわたった「お芝居」の巧さは、およそ素朴・ありのまま、ナイーヴ・生地、そんなものを引っくりかえし、そんなものを嘲笑したくなるほどの力を持ち、そして、技巧天国を教える」。
 技巧天国であると。つまり凡庸なリアリズム、そういった自然的なもの、そういうものを揶揄するかのごとき非常に巧緻な演技派である、ということを非常に称えているわけでございます。例えていうならば…。
 「ナジモヴァの体躯の動きには、画面のはじめからおわりまでを通して、舞踊の美がある。律動の美。時には大涛(大波ですね)。時には風に吹かれる草の葉。時には神をも蹴っとばす太さ(すごいですねえ)。そして時には、藁屑にも拝跪する細さ」。
 大胆にして、かつ繊細というナジモヴァの演技者としての巧みさをあますところなく伝えた名文ではないかと思います。このようにナジモヴァを称えた尾崎翠さんなんですけれども、しかし『椿姫』の相手役のルドルフ・ヴァレンチノに関しましては、かなり点が厳しいわけでございます。

恋と義理の板挟みは万国共通

 ご存じのとおり、この映画の原作はアレクサンドル・小デュマ、フランスの作家でありまして、1848年に発表したものでございます。52年にデュマは劇化いたしまして、そしてイタリアの作曲家ベルディが53年に「ラ・トラヴィアータ」というオペラに作曲いたしまして、もう世界的に広まったわけでございます。
 世界中でオペラ、舞台のみならず、何度も映画化されております。確認されているなかで一番古い作品が、なんと1907年のデンマーク映画。デンマークは映画先進国であります。
 そして12年はフランスの大女優サラ・ベルナール、15年はアメリカのクララ・キンボール・ヤングにイタリアの喜劇女優フランチェスカ・ベルチーニといった按配でございまして、17年には元祖ヴァンプといわれましたアメリカの女優セダ・バラも椿姫をしているというんですね。1920年にはドイツでポーラ・ネグリが、21年にはアメリカの悲劇女優ノーマ・タルマッジということで、多彩なな女優さんが椿姫を演じています。
 ちなみに日本でも演じられたんですね。1927年になりますけれど、あの杉本さんとソ連逃避行で有名な岡田嘉子さんが、この椿姫の撮影中に竹内良一さんと失踪、駆け落ちしてしまうという事件が起こりました。代役は夏川静江さんが演じるということで、日本でも無声映画時代から演じられています。
 発声画時代以降では、いろいろございます。有名なところでは1930年代、グレタ・ガルボ主演、共演がロバート・テイラーで美男美女コンビの椿姫がお馴染みでございます。
 日本で泉鏡花の『婦系図』がありますけれども、情愛と義理との板挟み、真砂町の先生が「別れろ」というわけですね。椿姫のようなお話、高級娼婦といわれたあのマルグリット・ゴーティエが愛するアルマンという、自分の命を賭けた愛する人がありながら、しかし…というような話は非常に万国共通のような感じがいたします。先年『滝の白糸』という作品をヨーロッパで上映し活弁を付けましたところ、「椿姫によく似た話だ」という話が出たくらいですから。

ナジモヴァとヴァレンチノ

 実は、アラ・ナジモヴァという方は同性の間でサークルを持っていた。非常に同性愛の強い方でいらっしゃって、サンセット大通りにある彼女の邸宅にはたくさんの才能のある女性たちが、彼女を女神のように崇めるというかたちで集まり、なおかつコスモポリタン、いろんな方たちが集まって当時非常に注目をされてたようなんです。
 そのナジモヴァのサークルの一人が美術デザイナーのナターシャ・ランボヴァでございます。不思議なことにヴァレンチノは最初、ナジモヴァのいわば子分といった存在のジーン・アッカーと結婚して、そして別れまして、二番目に結婚したのがナターシャ・ランボヴァ。この人もナジモヴァ・サークルの大変な協力者で、『サロメ』にも協力しているという大変才能のある美的感覚にすぐれた人なんです。
 椿というのは、『椿姫』の大事なポイントですね。とにかく背景の美術、家具調度品、時計、ベッド、あらゆるものが衣装も含めまして、素晴らしい世界です。椿のモチーフが様々に使われています。これを作ったナターシャ・ランボヴァは、美的な面でヴァレンチノにものすごい影響を与えていまして、結婚して二人で詩を書いて詩集を出したり、ヨーロッパに旅行したり。写真を見ましたけれども、おしゃれで美人です。
 この相手役でありますルドルフ・ヴァレンチノについては、アラ・ナジモヴァ、ナターシャ・ランボヴァ、それから忘れてならないこの映画の脚色者でありますジューン・メイシスといった力のある、才能のある優れた女性たちの引き立てによって世に出ていったということです。
 そういう女性たちの力によって作られたこの『椿姫』のなかで、また神妙にヴァレンチノがアルマンの役をつとめているところが見所であります。
 このアラ・ナジモヴァは尾崎さんもおっしゃってましたが、「鬘の美」。つまり人工的な巧緻を尽くした人工美の世界の女王ということで、そのあたりもこのセット、美術とともにお楽しみいただければ幸いでございます。ナジモヴァはその後、舞台の方に行きまして、そして舞台も有名な劇団の持ち主は女性だったそうなんですけれども、1945年に他界をしております。
 『椿姫』のときナジモヴァは確か42歳ということで、ヴァレンチノは26歳ということであります。全く年齢的なことは感じさせない、そういった意味でも、非常な演技者であるアラ・ナジモヴァ主演、ヴァレンチノ共演、脚色ジューン・メイシスによります『椿姫』をこれからご覧いただきたく存じます。

                   (記録・山本薫里/抄録・土井淑平)

※講演の全文は『尾崎翠フォーラム・in・鳥取2005報告集』(12月1日刊行予定)に収録します。報告集の問合せと注文は以下まで。

      manager@osaki-midori.gr.jp